10年のまとめ

 私はずっと絶望していたかった。絶対ずっと絶望していられると思っていたし、絶対ずっと絶望していようと決めていた。今は絶望すら続かなかったことに絶望している。

 

 

 あの夜の電話も泣きながら辿り着いた朝も冷たい肌も雨が降っていたことも途切れない列も痩けた頬も両腕に収まってしまった箱の重さもずっと覚えているのに声も姿も仕草も言葉も生活もどんどん思い出せなくなっていく、私がのうのうと生き続けてるせいでお母さんが生きてたことがどんどん遠ざかっていく

 

成人式も見てもらえなかった、ずっと私の振袖をどうするか心配してた。結局赤にしたんだよ、私が赤が似合うって知ってた?吉本新喜劇見たいって言ってたよね、いくらでも連れてってあげられたのに。ハリーポッターもお母さんが好きだったんじゃん、ホグワーツも大阪にできたんだよ。

 

お母さんを連れて大阪案内してあげるとか、帰省した時にお母さんのごはんを食べるとか、疲れた時に電話して声を聞くとか、1回もできなかった。19歳の冬から私の帰る場所が無くなった。私が18年間家だと思っていた場所はただの小さな箱にすぎなくて、お母さんがいた場所が家だったんだと知った。

 

10年前までの私が未来だと思っていた空想の中には全部お母さんがいて、仕事をしても結婚しても子どもができても歳をとっても、近くに当たり前にお母さんがいるんだと思っていた。あの日に私の未来も一緒に燃えてしまって、余生みたいな日々だけが10年間続いている。

 

余生にしてはだいぶ楽しんでんな、とはずっと思ってて、この10年の間、きっと私はすごく楽しくて、友達もいて、好きなものもあって、仕事もあって、食うに困らないだけの生活がなんとかできてて、いい10年間だったんだろうよ、でもお母さんはいないよね、だから幸せなわけないでしょ、絶対幸せじゃない

 

お母さんがいない世界で私が幸せになるなんて、私は絶対に許さない

 

お母さんじゃなかったら誰が死んでもよかったのに

 

今ならまだ間に合うからこの10年全部夢だったことにしてくれんかな、試験とか就活とかすごい嫌やけどもっかい頑張るけん、朝起きて、「めっちゃ嫌な夢見た、夢の中でお母さんが死んじゃってて10年経っとった!」ってお母さんに電話するんや